寺尾紗穂さんの『彗星の孤独』のなかでも、
こおろぎ嬢のこと、尾崎翠の生地鳥取で行われている
「尾崎翠フォーラム」のことなどが書かれていました。
山田稔自選集Vの自筆年譜を見ていると、
薔薇十字社から出ている『アップルパイの午後』を読んで
感激したこと、
創樹社から出ている『第七官界彷徨』に解説を描いたことが
出ていました。
もう読むしかありません。
薔薇十字社の『アップルパイの午後』、
今はこの出版社もなく絶版です。
岡山県立図書館は蔵書が多いのですが、ないようです。
アマゾンの古本、ヤフーオークションなどにもありません。
期待せずに、メルカリを見てみたら、なんとありました!
創樹社の『第七官界彷徨』は、
運よくヤフーオークションで見つけました。

というわけで、尾崎翠を読みました。
う〜ん、独自の世界。
山田さんが言われるように、「静寂」と「悲哀」の世界。
しかしその奥に繊細な熱い感覚、ユーモアのセンスがあります。
この感覚が、大正末期から昭和初期にかけての時代に
書かれていたとは!
今でも決して古くない、どことなく惹かれるところがある世界です。
山田さんの、映画のクローズアップ、モンタージュの技法を
使って書いているという指摘も面白かったです。
昭和7年、東京から鳥取に連れ戻されてからは、
神経科の病院や、老人ホームに入れられたり、
74歳で亡くなる前頃は、
自分が小説を書いていたのも忘れていたとか‥。
今ならもっといい薬もあるだろうし、
女性が文学を志すことに理解もあるし、
違っていたかもしれないと、すごく残念に思います。
心の奥に文学への熱い思いを秘めていたでしょうに。
あのまま書き続けていたら、どんな作品を書いていたでしょう。
亡くなる前に、薔薇十字社の『アップルパイの午後』の出版を知り、
「正気に戻ったのでしょうか、このまま死ぬのならむごいものだねえ、
とさめざめ涙を流しました」と妹の薫さんは話したそうです。
長くむごい後半生に胸が痛みます。